五十、エピローグ
「おっ、なんだ。お乳の木に用か・・・」
味噌屋がイチョウに米の袋を引っ掛けるところを見た高泉は言った。
「ふえっ! 『なんだ』とはなんじゃ。いつも全部食べるくせに。ふえっ!」
「わるい、わるい。味噌漬のほうを期待してたから、つい言っちまったんだ」
「来春の試作はこっちじゃよ、ほれ」
「あ。いつも、あんがとさん」
高泉は味噌屋が差し出した袋を受け取った。
「試食レポート、忘れるんじゃないぞえ」
「ああ。明日、星乃湯の帰りにでも届けるさ」
「先週から二時間、早く閉めてるから。間違えんようにな」
「ほう。いわば冬時間に変更というわけだ」
「そういったところじゃ、ふえっ」
「本格的な寒さは、これからだものな」
「そうじゃな、ふえっ」
「春はまだ遠いというわけか」
「じゃが、季節は必ずめぐるけん」
年末の斜光を浴びながら、彼女は長屋に帰っていった。
「『季節は必ずめぐる』か・・・。味噌屋もなかなかいいこと言うぜ」
高泉は愛用のサングラスを掛けた。そして暖冬の空をあおいだ。それは雲一つない青空であった・・・。
了
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●おわりに
岸岳夫は、福岡事件(1947年)死刑囚「西武雄」から着想を得た。だが、作中の記述はすべてフィクションである。現実には、西は逃亡せず、僧侶の支援も受け獄中から冤罪を訴え続けたが、1975年ついに処刑された。獄中、彼は実名にて、観音図を一枚ならず描いた。
蒔苗昌彦


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