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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【二】

 砂糖とアミノ酸を高温で反応させると、食欲をそそる香ばしいにおいを発します。焼き立てのパンやホットケーキなどがその一例です。

 

 一三六八年 元倒れ、明、興る。

 

 団長がら、声かがたね。

(団長に呼ばれた)

 じぎだのー

(いよいよですか……)

 

 おっ、丁度いい位置にきやがった。ありがたや、ありがたや。それでは一つ。ぺタリっと。

「きゃっ! ダメですよ、獄さん! また悪さして。ほんとうに、あの立派な首相の弟なんですか?」

「ハイハイ、わかった、わかった」

 ちぇっ、白衣の天使も説教たれる。だが、その説教をする姿が、こりゃまた可愛い。ほとぼりがさめたら、また一つぺタリとしてやろう。

 それにしても院内じゃ、首相の実弟というステータスが確立されたようだ。実際、俺自身、「ねえさん」と呼びかけてるわけだし、苗字が同じの従姉とくりゃあ、ま、当然なことだがな。

「また4141チャネルですね」

 彼女は、点滴のあんばいをチェックしながら、ベッドの上にアームでせり出した液晶テレビを覗いて言った。

「知ってんの? このチャンネル……」

「もちろん知ってますよ。日本初めての女性総理。同性として誇りに思ってます。それに、なによりもカッコいいわ。特に外国の首脳と並んだ時になんか」

「あ、そう。ほんじゃ、色紙でも準備しておきなよ。次回、サインの一つでもさせるさ」

 色紙にサインだなんて全く芸能人みたいだが、事実、ファッションモデルに映画女優。ロック歌手に転向したら大ヒット。加えて、お手軽クッキングの講師にテーブルワインの評論家。議員のほうも毎回トップで当選だ。こうした超スーパーな経歴を持つ上に、五十半ばでも衰えぬ肢体、今だ花の独身とくりゃあ、首相の仕事に専念するようになってもマスコミのタレント扱いがやむはずがない。

 とはいえ、4141チャネルは、役所が始めた24時間のプロパガンダ放送だ。民放のバラエティショーとかと違い、特段の演出はない。首相の毎日の動きをハイライトに、国家機関の日常業務や新規プロジェクトの紹介映像を加え、あとは国会の様子やら政治絡みのフォーラムやシンポジウムなどをそのままダラダラ流すだけ。再放送の時間も長い。治安や防衛関連の活動もよく紹介されるので、ナチスの宣伝省ばりと批判する輩もいるようだが、俺の従姉さんが首相である限り大丈夫だ。癌のおかげで残高が少ない命だろうが、賭けてもいい。従姉さんは平和主義者だ。

 もっとも、「平和」をどのように定義するのか、問題だ。が、それは完治した暁にでもじっくり語ることとし、今は治療に専念しよう。

 

 北鎌倉の裏山。尾根づたいに歩けば、大船の観音も見えなくもないあたり。雑木に紛れ、鷲霊山・白道寺がひっそりとある。

 名前は大仰だが、むしろ庵と呼んだほうが適切で、実際、散策で前を通り過ぎる人たちの誰一人として、寺だとは思っていない。二月も終わる頃、そこに超・特別捜査員、Kが訪れた。

「こんにちは。和尚」

「おお、お待ちしてましたよ」

「早いもので、前回から三ケ月経ってしまいました」

「そうかね。そんなに経ってしまったかね。ここはのんびりした所だから、どうも歳月の感覚がなくてのう。ま、とにかく大歓迎じゃ」

「ありがとうございます」

「で、お一人ということは、とりあえず静養が目的ということですかな?」

「はい……。でも、いつもの通り運営チームが待機していますから、ご迷惑を掛けることはありません」

「迷惑だなんて……。そんなこと一切考えず、ゆっくりしていきなされ」

<次章へ続く>

 
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●制作・著作:蒔苗昌彦

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