【六】
砂糖の原材料は主に、甘藷(砂糖きび)、甜菜(砂糖だいこん)から得ます。
a
一六六一年 明の遺臣、鄭氏。蘭から台湾を奪取。
b
あぎごちゃ。五つだべさあ、しんちゃかばって、めごいの。
(昭子ちゃん。まだ五つなのに、進ちゃんの面倒みて、いい子ねえー)
おめえだて、十三だべさあ、オドチャ、オガチャいねえで、たいしたもんでねえの。
(あなたもまだ十三だというのに、ご両親から遠く離れて、偉いわ)
c
「獄さん、政治の記者なんですって?」
白衣の天使の言う通り、俺は政治部だったが、実際には社会部のほうがちと長い。もっとも、商社を辞めてから中途で新聞記者になったから、政治部にせよ社会部にせよ、それ一筋という記者たちが多い中、若干異質な存在だったかもしれん。
なぜ商社を辞めたのか……。
別に仕事が辛かったわけじゃない。新聞社よりもずっと給料は良かったし、若くして世界を股に掛けるのもまんざらではなかった。
ただ、たまたま、米国から輸入した大型機械を徹夜で設置する作業に立ち会った際、或る技師がやたらコーラを飲んでいる姿を眺めていたら、ふと、職種転換したくなったのである。
その技師は米国人だから、やたらコーラを飲もうと当然だともいえるが、クーラーの効きがよくない夏の日の屋内で、炭酸も抜けた上ずいぶん温くなっていたであろう1.5リットルのペットボトルをラッパ飲みしながら、汗だくで不具合に取り組んでいる姿が、なんとも……。
いや、俺だってコーラは飲む。嫌いじゃない。だからそこまでの話だったら、職種転換の着想にまでは至らなかったと思う。
しかし、彼は脇で見学している俺に「おまえも飲むか?」とそのペットボトルを差し出した。反射的に俺は「ノーサンキュー」と断っちまった。口にするのが気持ち悪かったわけだが、後から思えば、無理してでも付き合って飲むべきだったと悔まれて仕方ない。
別に彼は気分を害した様子もなく、ニッコリと笑みを浮かべてから冬眠前の熊のような身体をゆさぶりながら引き続き機械に取り組んだ。その彼をあとに現場を離れる時、それまで一切考えもしなかった職種転換が、ふと、頭に浮かんだのである。
d
あーむー。んあーむー……、チーン。
「きれいな夕陽じゃろ?」
いつもながらシンプルな祈りを終えた和尚は、一緒に焚き火を囲むKと田中に語り掛けた。
「ええ」田中が応えた。
「西方に極楽浄土あり、との説は、この時季の夕陽と、もうしばらくして紫色から始まる夕暮れを見る時、切に真実味を帯びるじゃて……」
「私のビジョンにも、映る時がくればいいなあー」今日は午後から口数が少ないKがポツリと言った。
「なあーに。立証など不要じゃよ。なんとはなしにでも、そう思えれば充分じゃ。それに、仏教の浄土だけ立証されて、他の宗教の浄土が立証されないとなると、よろしくないじゃて」
「そうですよねえ、和尚。特に、国際宗教議連の顧問という関係上……」
「んまあ、それもある」
「そういえば、和尚が宗教を始めた時の経緯、まだお伺いしたことがなかったですねえ」
「そうじゃったかの? 何度も話した気がするが」
「鎌倉にご縁があったということは、誰かから聞いた気がしますけど……」
「いや、縁というほどのものじゃ……」
「というと?」
「親と一緒に帰国して、通訳のアルバイトをしている時にな、英国人夫婦に頼まれて鎌倉観光に同行したんじゃ」
「それが宗教に踏み込むキッカケですか?」
「ああ。赤子を救う観音像の前で、周りの誰よりも真剣に手を合わせて祈ってな。その姿に打たれたんじゃ。もちろん、二人は普段、キリスト教の信者なわけじゃが……」
「祈りにこそ宗教あり、というわけかあ……」
「そうじゃな。もうすこし正確に言えば、場所も含め、祈る機会を提供するのが宗教機関の役割。説教はおまけのようなものじゃ」
「とはいえ、重要なおまけですけどね」
「ま、そうも言える」
「じゃあ、また夕食前の説教、一つよろしくお願いします」
「ふむ。では、始めるとするかのぅ」
三人は、石で囲んだ焚き火の消火を充分に見届け、カタカタとお粥モードで湯気を立てる電気釜が待つ部屋に戻っていった。夕焼けは、まだまだ美しく展開していた。
e
健康連絡委員の名称は、健康サポートスタッフへと変更になった。彼らは熱心な活動を再開した。
ともかく都内最大規模の団地。総住民数も多いが人口密度も高い。だから、コミ健についてのチラシ配りも効率がいい。郵便受けが集中しているからだ。これが怪しげなチラシや、売り込む一方といったチラシならば、いくら効率よく配られていてもゴミ箱へ直行。しかし、コミ健のチラシは区のロゴマークも入った健康一色のチラシだから、一応は皆、手に取る。一切 と謳っていることに関しても、疑う人はいない。
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