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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【七】

 イタヤカエデの樹液も砂糖の原材料となりますが、世界全体の生産量に占める割合は大きくありません。むしろメープルシロップとして知られています。

 

 一六八三年 清、鄭氏を滅ぼし、台湾領有。

 

 おねえちゃー。

(おねえちゃん)

 まいねべさあ。斉藤さんってよばねばー。

(あら、ダメよ。ちゃんと、斉藤さんと呼びなさい)

 

「『ざいしょう・しょうめつ』だったかしら。それって何?」

「あ? 今日も出勤前に4141チャネルつけていたんだな……」

 例の記念墓地に絡むパネルディスカッションで、戦犯問題に話が及んだ時、どこぞやの大学教授が東京裁判に触れていた。

「それはね、いや、メモに書こう。ほれ……」

「ふーん、『罪障消滅』かあー。で? 意味は?」

「東京裁判の結審を受けて出したマッカーサーの声明。その中でこの言葉が使われたという。4141チャネルに出演していた学者の解説なわけだが、別にマッカーサーの生み出した言葉というわけじゃなく、古くからある言葉だが、刑の執行によって罪が消えるという意味だよ」

「あ、そうか」

「死刑となった戦犯が、命を持って罪を償い、それを裁いた側のマッカーサーとしても『国際平和のためにもこの悲劇をしっかり認識しましょう』と提言したわけだが、ま、すぐあとの朝鮮戦争じゃあ、北側に加担した中華人民共和国に対し核爆弾を使ってはと発言し大統領に解任されちまい……。まったく、おったまげちまうよ」

「ふーん。おっかなーい……。で、この罪障消滅は、死刑の場合だけ使うの?」

「いいや。何も死で償うほど大きな罪でなくても使えると思うけど。たとえば軽犯罪を犯して罰金五千円で許してもらっちゃったとか。それだって罪障消滅ということになるんじゃないかな? ま、ともかく刑が執行された以上、罪は消えるという意味さ」

「ふーん。それで、獄さんは、戦犯の名前が墓地リストに載ることに反対していないというわけね。よくわかったわ」

 うーむ。まだ彼女は、俺の意見を好意的に取っているようだ。

 神か仏。はたまた閻魔大王にでも直接インタビューしない限り、死刑によって罪が消去されたという証拠は掴めないやしない。当人が別世界へ行ってしまった後は、その世界を仕切る存在のみぞ知るというわけだ。

 が、戦犯の名前であってもリストに載せるべきという俺の考えには、とにかく宗教的な意味はない。もちろん、従姉さんにしても同様だろう。そうでなきゃ、大東亜共栄圏におかれた諸国の非難が続くことになる。それでは、新墓地の政治目的が達成できない。

 

「あ、黄色のシグナルがゆっくり点滅し始めましたね……」

「そうですね……」

「コンディション5に入ったということですか?」

「ええ」

「『急護員』でしたっけ? まだ、その人たちは来ないのですね」

「ええ。5の段階なら、平常に戻る確率のほうが高いので……。ただ、いつコンディション4になってもいいように、出動スタンバイの態勢を取り始めていると思います」

「ビジョンは、コンディション4から見え始めるのですか?」

「いいえ。3から、少しずつ……」

「隔離室に入るのは?」

「コンディション2になってからです……」

 

 健康サポートスタッフの中でも、西村明美は特にオープンだ。物静かながらもあっけらかんとしていて、誰もが声を掛けやすい。高橋所長は、初回ミーティングですぐ西村のキャラを感じ取り、今後の活動の要として期待した。

 その西村からの提案もあり、二月の第二週には虫歯予防相談会、第三週にダイエット相談会を、それぞれ三日ずつ行なうことになった。

 保健相談所時代からのことだが、コミ健には、保健師のみならず、歯科衛生士や栄養士も勤務している。彼らの相談対応力も存分に発揮してもらおうという企画なのだ。

 場所は、コミ健の玄関ホール。大会議室で行なう案も出されたが、吹き抜けで広々としている上、ガラス張りで自然光がたっぷりそそぐからオープンな雰囲気となって良いだろうという西村の意見で、こちらに確定した。

<次章へ続く>

 
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小説中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。

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●制作・著作:蒔苗昌彦

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