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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【八】

 甘藷(砂糖きび)は熱帯・亜熱帯または温暖な気候にて、甜菜(砂糖だいこん)は寒帯で栽培されます。

 

一六八九年 南下する露との戦闘の結果、ネルチンスク条約。清露間、境界を定める。

       後にも、数々の条約が結ばれるものの、侵犯は交互に発生。

 

 わいねえの。しんちゃのおしめまでさあ……

(すみませんねえ。進ちゃんのおむつまで……)

 いやー、わいのやつめっこみてえなもんだね……

(いいえ、自分の弟だと思ってますから……)

 

「ごっ君、ごっ君……」

「あ?……おう、従姉さんか」

「いつも起こしてご免なさいね」

「アジア会議、どうだった?」

「それ、記者としてのインタビュー? それとも、単なる親戚の雑談?」

「おっと、従姉さんにしては辛辣なジョーク。ということは、会議、今一つ不調だったわけだな?」

「そうね……」

「他国が持ち出してきた案とはいえ、アジア独自の平和維持軍を作るという話は、従姉さんの改憲論に付帯する具体的な条件と相容れないからなあ」

「そうなのよ」

「集団的な防衛は日本国内への軍事侵攻が発生した場合に限り、かつ、有事以前に駐留する外国軍との共同作戦に限る。この枠組みを外すことは、七十年前に崩壊した大東亜共栄圏に対する復古主義だと牽制しながらも、合同平和維持軍へ資金協力しろというのじゃなあ……」

「まったくジレンマだわ。でも、たとえ日本抜きに進めるとしても、アジア各国間の利害関係・緊張関係がある中での新構想だから、日本だけが悩みを背負う必要はないと思ってる……」

「まあ、その辺りを上手に立ち回って、結果、安全を確保するのが従姉さんの仕事となるわけだから……。ベッドの上から声援送るよ」

「ありがとう、ごっ君」

「でも、4141チャネルで見る限りじゃあ、新墓地の構想については、いよいよ諸国の理解を取り付けられそうじゃない」

「ええ。大丈夫そうだわ」

「やはり、従姉さんが、『戦争記念』という名称を貫き通しているから、諸国の理解も得やすかったんだろうねえ」

「ええ。彼らにとっては、平和の思い出ではなく、あくまで戦争の思い出でしかないのだから」

「じゃ、実現に向けた残りのハードルは、国内の反対論者だけということかあ……」

 

「仮説とはいえ、全てのオブジェクトが映る可能性を持つとはねえ……」

「ええ。むしろ問題は、どれを見ることにするのか、優先順位のつけ方です。コンディション1や2の時間には限りがありますから」

「そうでしょうねえ。その貴重な状態をいかに有効利用するか、ということですね。あ、Kさんに対して失礼な言い方になったかな。ご免なさい」

「いいえ。まさに私が置かれる状態を有効に使ってもらいたいからこそ、機関との契約を毎年更新しているのです。それよりも要員不足に応えて、田中さんも研修受講、検討してみて下さいよ」

「いやあ……」

「せめて一度、見学してみては? 推薦しておきますから」

「まあ、他人事としてならば興味深いので、見学だけでも構わないなら……。でも当事者になるつもりは、やはりありませんよ。私の一回ぽっきりの経験は、単に、スーパーのレジ周辺のお客さんの流れが、映画の予告編のようにして見えただけで、別にどうっていうことないけれど、もしとんでもなく恐ろしい出来事などが見えちゃったら……」

「そうですよね。恐ろしい出来事からは、誰だって、目をつぶりたいですものね。何もビジョンのような超常現象でなくても、日常的に発生している不幸な出来事に関してであってすら」

「そう言われてしまうと、みもふたもありませんなあー……」

「ちなみに、契約の特典として、ビジョンで見たかどうかに関係なく、希望する記憶を消去してもらえますよ」

「ほう。それなら少しは気が楽ですね。でも、薬物を使ったりするでは?」

「薬物は中毒になりますから、使いません。電子的にニューロンの信号を操作して消します」

「そこまで技術が開発されているとはねえ……」

「ええ。世界数十国からの委託を受け日米中露が合同開発している上、国際的な犯罪撲滅組織の外郭として動いていますから……。資金のみならず技術も世界中から集まっています」

「でも、稼働時間は短いにせよ何でも見える可能性があるだけに、軍事や外交の上で、まずいことになるのでは?」

「このプロジェクトが扱ってはならない事柄、各国が機密とする事柄、には、片っ端からフラッグを立てておく協定となってまして」

「フラッグ?! 旗ですか?」

「ええ。いわばフラッグです。それが非取り扱い事項、機密事項であるという印を、インターフェースの中に入れておくのです」

「なるほど」

「そして、フラッグが立っている事項は投影しないように、制御されます。万が一、フラッグを立ててある事項を投影してしまった場合には、即時、自動消去されるようになっています」

「フラッグを立て損ねてある場合は?」

「運営管理を委託されている日米中露が、責任持って即時、消去判定を下していきます」

「協定にまだ加盟していない国の情報については?」

「それはそうと分かった段階で、消去されます」

「いやあ、随分と紳士的な管理体制ですねえ……」

「あくまでも、各国の法律に共通する犯罪、かつ、合意した項目に限っての捜査が目的ですから」

「それでも、大国の軍事や政治に応用されてしまうのでは?」

「その可能性を牽制するように、コンディション3から管理委託四ヶ国の協議体制が組まれます」

「どこで協議するのですか?」

「ジュネーブのセンターで」

「緊張関係で牽制力をもたせるわけかあ。まさに国際的ですねえ……」

 

 健康サポートスタッフたちの宣伝活動は、チラシをポスティングするに留まらなかった。廊下やエレベーター、団地内の歩道、スーパー、商店などで出会う顔見知りにも頼み、「虫歯予防相談会」「ダイエット相談会」の開催情報を広めてもらうよう努力した。

 手ごたえ充分。相談会への来場者数に、大きな期待が膨らんだ。

<次章へ続く>

 
  あらすじ 

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小説中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。

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●制作・著作:蒔苗昌彦

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