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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【十】

 ヨーロッパ広域に砂糖が伝わり出したのは、十字軍の遠征が契機と言われています。

 

 一八五四年 米に続き、日の開港を果たした露、不凍港を求め、朝鮮に急接近。

 

 アパ。おねえちゃ、どうしたばして?

(お母さん。おねえちゃんは?)

 とうぐさ、ゆぐどごあってーいったんだね。まださあ、けわりのおねえちゃくるはんで。

(旅行へ行ったわ。でも、すぐ、別のおねえちゃんが来るわよ)

 

「局長。生還したぜ」

「お、獄ちゃん。ん、ずいぶん、やせ、いや、スリムになったねえ」

「いいんだよ。痩せたと言ってくれて。以前太り過ぎだったから。結果二十キロ近く減ったさ」

「で、どうする? 無理しなくていいからね」

「会社のお荷物になっちゃまずいし、検討させてちょ」

「なんだ。弱気になったね。獄ちゃんらしくないぞ」

「まあね。相当痛い思いしたしさ。でも、やっちゃんが、俺の代わり充分果たしてくれているんでしょ?」

「若いけど、彼、よくやってるよ」

「あたぼうよ。俺が厳しく育てんだからな」

「新卒採用を抑えている中だから、社としても感謝してる。ま、その分、しばらく無理せず、回復を優先してくれや」

「お優しいお言葉、ありがたいねえ。ほんじゃ、木曜か金曜あたり、ラッシュを避けて、また来るね」

 

 今日は昼食を遅めにとったこともあり、空が紫に染まり始めても、三人は焚き火を囲んでいた。

「あ、いつの間にか、黄色が点滅してますね……」

「ええ……」

「あっ、点灯に変わった!」

「そうですね……」

「コンディション4ですか」

「ええ」

「何か、見えますか?」

「いいえ」

「あ、そうでしたね。見え始めるのは、コンディション3からでしたね」

「ええ」

「今回こそゆっくり静養なされるかと思いきや。まあ、大変なお仕事じゃのう。わしには、無事を祈ってあげることしかできんじゃて」

「それがどれだけ心強いことか……」かなり言葉数が減ったKはゆっくりと目を閉じた。

 

 週末の午後にも関わらず、集計担当者の家に集まったスタッフたち。西村の仕切りもよく、一気に集計作業を済ませ、ケーキと紅茶の時間に入った。

「それにしても、ほんとに沢山、人が来たわねえ」

「来週のダイエット相談会も、期待できそうね」

「そうねえ。でも、声がけ、続けようっと」

「わたしなんか、先々週、手当たり次第、声がけしたわ」

「わたしもよ。おかげで、知り合いがぐんと増えた気がする……」

「同感!」

「コミュニティあってこそのコミ健。いいことだわー」西村が満足そうに言った。

「そういえば、虫歯予防相談の時、西村さんが応対していた人の中で、たいそうな美人ちゃんがいたわね?」

「あ、そうそう。わたしも思わず目を奪われたわ」

「あの若い美人ちゃんのことよね。わたしも見ちゃったわ。西村さんのお知り合い?」

「うーん、よく知ってるわけじゃないのよ……」

「あら、西村さんにしては歯切れ悪いじゃない。同じ棟の人じゃないの?」

「中庭でお子さんと遊んでいたところに、チラシを渡したので……。うちの向かいの棟か、その並びだと思うわ」

「賃貸の棟ね」

「お子さんいるんだあ。じゃあ、ヤンママというわけね」

「あれだけの美人ちゃんなら、早くから結婚申し込みが殺到するでしょうから、当然というわけね」

「わたしたちみたいに、じっくり相手を選んでいる暇もないっていうことね」

「あ、でも、あの美人ちゃん、相談会には一人で来てたのでは?」

「そうだったかしら? わたしは、てっきり、子供のお遊びスペースに置いてきたのかと思って対応していたけど……。あの人、預けに来なかった?」西村は特設のお遊びスペースを担当した元保母さんのスタッフに訊いた。

「いいえ。預けにこなかったと思う。みんながそんなに噂するほどの、若い美人ちゃんは……」

「そう。じゃ、やはり一人で来たのねえ」西村は言った。

「ところで、西村さん。どんな質問を受けたの?」

「もちろん、虫歯予防のことだけど……」

「あら、西村さんにしては、また、歯切れ悪いじゃない」

「ええ。というのも、『詳しいことは歯科衛生士が説明します』と言って、連れてこようとしたら、帰っちゃったから……」

「ふーん。子供を置いてきたのだから、どこか出かける用でもあったんじゃないの?」

「きっと、そうだわよ。ちゃんとお化粧もしていたし、お洋服も素敵だったし」

「ステキだったわよねえ。ちなみに、西村さん。虫歯予防について、具体的にはどんなこと質問されたの?」

「よくある質問だけど。『お砂糖は虫歯の原因になるんですか?』とだけ」

「それだけ?」

「ええ、それだけ……」

<次章へ続く>

 
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小説中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。

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●制作・著作:蒔苗昌彦

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