【十二】
近代になり量産される以前、砂糖は、貴重な薬として扱われることもありました。
a
一八七五年 米の支持を受け、日、軍艦を朝鮮の漢江口へ入れ、艦砲射撃の演習。
その結果、江華条約。朝鮮進出への足がかり固める。
b
条約って! 条約ばさあ、どごさいたんだべえー……
(条約は! 条約はいったいどうなったんでしょう……)
はらこたづじゃ。
(く、悔しいかぎりだわ)
c
「おうっ! 編集長はいるか?」
なんだこいつ。電話の掛け方を知らんな。もっとも、俺が言えた義理じゃねえか。
「私が編集長ですが……」とはいえ、編集長兼記者兼経理兼清掃担当兼、エトセトラ。城東北エリアの一人支局だから、何だって兼務。
「おりゃーあっ! あんなことまた書きやがると、ただじゃ済まんぞ! いいかあっー!」
なんだこいつ。突然、素っ頓狂に怒鳴り散らしやがって。こちとら、通院しながらの紙面作り。だから今はやり返さないが、本来、怒鳴り合いじゃ負けやしない。
「どちらのお客さんか、知りませんが、何か苦情がありましたら、こちらの支局までお越し下さい。その時、お話を伺いましょう」
「なんだこの野郎! こっちの時間を都合しろって言うのか!」
「でも、何かご用なんでしょ?」
「ご用もへったくれもあるか! いいか。あんなことまた書きやがると、ただじゃ済まんからな!」
ガチャン!
自分のほうから掛けてきやがったくせして、自分のほうから切っちまいがやった。だいたい、コミュニティ紙の支局だってえの、分かっているのかしらん? 本社の社会部と混同してんじゃないの?……
あっ! わかった!
先週始めた「コミコミ事件追跡レポート」の絡みだな?
失敗したあーっ!
いいチャンスを逃した。上手いことなだめて、所在をつかんでおくんだった。病気のせいか、俺の即応力も鈍ったもんだ。ちぇっ!
ともかく、二一世紀もずいぶん経つってえのに、いまだ一般人を脅すセコい奴もいたものだが、俺が担当するエリア内でも、発生してたとは……。たぶん酔っ払ったかラリってたかしてたんだろうが、蕎麦屋が店舗の脇で飼っていた犬の小屋にわざわざ近づき、一噛みさせて因縁つけて。それもどうやら以前蕎麦屋に客として入った際、取りつきやすい主人であることを見抜いた上での行動のようだ。
こんな事件。全国紙やブロック紙。いや、地方紙でさえ記事扱いできんだろうが、コミニティ紙ともなりゃあ大事件だ。慰謝料払った上、引っ越してしまった家族については残念ながら手遅れだが、せめて他の店が同じ目に合わないようにできりゃあ……。それで「コミコミ事件追跡レポート」と題しておっぱじめてみたわけだが、こんなにすぐ反応があるとはな。
d
「こちら、Sさんです」
いよいよ夕闇が終わる中、急護員は、同意書に署名し終えた田中を、研究員のSへ引き継いだ。
「では、あの警備室で、IDカードを発行してもらって下さい。あちらのコンテナで待っています!」
また向かってくるヘリの音にかき消されまいと研究員のSは大声で言った。
「それがモニター室ですか?」
田中も大声を出して確認した。
「はい!」
どちらかと言えば、地層学か何かの助教授風。小柄ながらも髭が熊のように豊かなSは、さらに近づくヘリの音にかき消されないよう、かん高い声で返事した。
e
「あ、西村さん。ひょっとして、あの美人ちゃんじゃない?」
ガラスばりの玄関ホールは外がよく見える。
ダイエット相談会の初日はみぞれ混じりの雨になった。連日春のような陽気だった虫歯予防相談会とは異なり、ほとんど来場がない。その中、カラフルな傘。今日は化粧なしで普段着の彼女だったが、健康サポートスタッフたちの視線は当然集中する。
弱めながらも横殴りの風に傘の操作に捕われていたようで、玄関に辿り着いてから、皆の視線に気がついた。驚いた様子を隠し切れず、閉じたばかりの傘を慌てて広げ、来た道を戻ってしまった。
スタッフたちに悪気がないことは分かっていたが、たいそう後味が悪かった。おおらかな西村にとって、何年ぶりのことだろうか……
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