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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【十四】

 アジアの熱帯・亜熱帯、およびそれに準じる温暖な地帯でも、多くの甘藷畑が作られました。

 

 一八九四年 露牽制の意図を持つ英米の支持下、日清戦争。戦火は朝鮮半島から清国内

       へと広がる。翌年、米の調停により下関条約。日、台湾併合。

 

 じゃの、あぎごちゃ、わとてこつなぐはんで。

(さあ、昭子ちゃん。私が手を引いてあげるわ)

 うん、ねえちゃ。

(うん、おねえちゃん)

 

 経営企画部? ふむ。訊くまでもないか……。

 自治体が、民間企業の効率性を学べという掛け声をあげるようになって久しいが、そういった関係で、こうした部署名をつけたんだな? 今まで知らなかったのは、俺が潜りだったからだろう。経営企画部と刷り込んだ看板も、かなり年季が入っている。実際、社会部にいた時、特別区や市町村の単位での取材は一度もしなかったことだしな。

 だが、コミュニティ紙となれば、話は違う。俺が担当する城東北エリアでも圧倒的に人口の多い世杉区に、色々とご指導頂かなきゃ。

 それにしても、自治体の広報担当が経営企画部内にあるというのは、風変わりかも?…… ん、ま、どうでもいいことか。

「すみません。お待たせ致しました」

「あ、いえ……」

「こんどまた、新しい橋が開通するので。そのオープニングイベントの打ち合わせが長引きまして……」

「それは、どうもご苦労さまです」

 なあーんちゃって、やさぐれた俺だって、必要があればこうした言葉づかいはできる。

「先日、お電話にてご説明したように、世杉区における公共系活動の情報源、色々とご紹介頂きたく……」

「ええ、もちろん協力させて頂きますよ」

「あ、遅れましたが、お名刺を……」

「そうですね。ちょっとお待ちください。今、机から持ってきますので……」

 ふむ。区がじきじきに発行している広報紙があるにもかかわらず、先週行った田並区の広報担当者もオープンだったし、世杉区の広報担当者もなかなかオープンだ。こちとら広告で成り立つコミュニティ紙だから、敬遠されるかとも思ったが、杞憂のようだ。二一世紀、ディスクロージャーはますます進むというわけか。どうやら今後の取材、効率よくできそうだ。

 

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 コンディションはなかなか2に成り切らず、3や4へと行ったり来たりしていた。そのため、モニター室のビジョン投影装置もアンテナが外れたテレビ同様、ノイズが映っているだけである。そのため、モニター室には緊迫感がないどころか、技師補がコーヒーのサービスまでしてくれた。徹夜作業の眠気を飛ばすためだろうか。コーヒーは随分と濃かった。研究員Sに対する田中の質問は、雑談のような雰囲気をより一層漂わせ、続いた。

「Kさんから聞いたのですが、このプロジェクトで扱う事柄は、事前にしっかり絞り込まれているとのことですが……」

「ええ。何しろ、コンディション1でビジョンが記録されない限り、資料として当局に提出しないという協定になっています。ところが、そのコンディション1が続く時間は、そう長くない。しかし、世界では様々な犯罪が次々起っている。となれば、あらかじめ相当絞り込んでおかないと、情報収集が散漫になってしまいますからね。まあ、二兎追う者は一兎も得ず、ということですよ」

「で、その事前の絞り込みは、どのぐらいのタイミングで行なうのですか?」

「Kさんの超能力が発揮されるかに関わらず、通常の捜査はどんどん進んでいますので。だから、超能力発揮の予兆が出た時、具体的にはコンディション5になった時、捜査優先順位を更新するためのネット会議が開催されます」

「その時点で確認された事項が、ビジョン投影の対象となるわけか……」

「ええ」

「で、今回の最優先事項、何ですか?」

「児童の人身売買です」

「なるほど。あれか……。世界的な取引まで行なわれている可能性、マスコミでも流れ続けてますものね。大昔は神隠しとか言って済ませていたのかもしれないが、なんにしても恐ろしいことだ……」

「ええ。今は、『連れ去り』という用語が、世間では定着しまったようですが、奴らにとって『連れ去り』は単なる手段であって目的ではなく、売買で金を得ることが目的ですからね。だから、『人さらい』や『人身売買』という言葉をずばり使って、子供たちを見守る大人たちの緊張感を高めてもらおうと、なるべく情報をリークしているのですが、なかなか……」

「そうかもしれませんねえ。多くの人は、恐ろしい現実から目をそむけ、自分の住む世界は平安だと思いたがるわけですからねえ。まあ、私だって、そうした人間のうちの一人で、批判できる立場にありませんが……」

「いいや、田中さんはご自身にそうした心理があることを自己認識していらっしゃる。だから大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。そう言って頂けると、今回の見学もしやすいですが……。ところで、捜査優先順位の二番目は、今回、何ですか?」

「同じく人身売買ですが、適用が大人です」

「大人?」

「ええ。でも、大人とはいえ、被害者が女性のケースです」

「というと、騙して他国に連れ出し、パスポートを取り上げて売春を強制させるといった手口の……」

「ええ。一時、減少化傾向にあったのですが、再び、世界の貧富と貨幣価値の差が広まったことに起因して」

「うーむ……」

「困ったことに、大人の女性とはいえ、つい最近まで少女だった年齢の女性が特に騙されやすく、また、奴らにしてみれば手なづけやすいのでしょうが、その面で児童売買組織との連携も起きやすいのですよ。だから、優先順位をつけて対応していく格好なわけです」

「大人より子供を優先するというわけか……」

「ええ。子供は、売春のみならず、臓器や人肉の売買のため家畜のように潰されている疑いすら持たれていますから、大人より事態は深刻です」

「それについても、可能性を示唆するTV番組を見たことがある……」

「中世ヨーロッパの十字軍では、子供十字軍として志願兵を集めておきながら遠征した先で売り飛ばされることもあったと言われてますが、そうだとしても奴隷として売られたのでしょう。だから、現代のほうが、ずっと恐ろしいとも言えます」

「時代が進むにつれ、状態が改善されると願いたいが、なんだか後退しているようだなあ……」

「いや、田中さん。それを後退させないためにも、科学と超能力の融合でどうにか情報をつかみ、最悪の犯罪を撲滅しようとしているわけですから、悲観せずに。Kさんの献身で、当方の技術も着々と進んでいますし」

 

 スタッフたちの間ですっかり「美人ちゃん」というニックネームが定着した彼女のことが気がかりで仕方ない西村は、所長の高橋に相談をした。高橋は、二人きりの応接室で話を聞いた。

 ダイエット相談会の際には、引き返してしまったから仕方ない。が、虫歯予防相談会の際にはどのような様子だったのか?

「『砂糖は虫歯の原因になりますか?』と訊かれて、歯科衛生士につながおうとしたら、帰ってしまったのです」

「何か悩みがあるのかもしれませんね。西村さんに打ち明けたいものの、踏み切れないでいるのでしょう」

「やはり……。あ、でも、それまで面識がなかったのに、虫歯やダイエット以外の事で何か?」

「あくまで勘ですが、虫歯やダイエットの相談があって来館したのなら、途中で躊躇うことはないのでは……。ちなみに、今、『面識がなかった』とおっしゃいましたが、具体的にはどの程度ですか?」

「えー、初めて遭ったのは、虫歯予防相談会のチラシを手渡した時です。中庭でお子さんと遊んでいる時でした。二回目が、虫歯予防相談会で来場した時。三回目がスーパーに行く途中ですれ違った時。あとは、ダイエット相談会の初日ですが……。私に気づく前に、スタッフたちの視線を感じ、引き返してしまったのだろうと思います」

「名前は知らないのですよね?」

「ええ」

「住所も?」

「この団地内であることは確かだと思います。たぶん、私の前の棟か、その並びの賃貸の棟では……」

 

<次章へ続く>

 
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小説中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。

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●制作・著作:蒔苗昌彦

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