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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【十六】

 アフリカから大西洋を越えて奴隷を運び、その帰路、西欧へ砂糖などの世界商品を運び売却するという航海貿易が、大変栄えました。

 

一九〇一年 四年に及んだ義和団運動。中国の民族意識高まる。

      が、英露日米独仏伊およびオーストリアの八国連合軍による武力干渉も

      あり、終結。

 

 わいはあーっ、斉藤さん、かだのどこ!

(あっ!斉藤さん。肩が!)

 やはんで、やはんで、ちべただね。

(大丈夫です。これしきのこと)

 

 おっ。あの先に見えるのが、そうだな。

 市販の地図。情報が古く、「保健相談所」と書いてあったが、あの看板が示す通り、正しくは「コミュニティ健康相談センター」だ。区の広報担当者が言うには、名称の変更こそ他の区に十年以上遅れてしまったが、人的活動の面では、都内でもかなり活発だという。まあ、これだけでかい団地の中だ。総人口も密度も相当だろう。活動も自然と活発になろうというものだ。

 とかなんとか考えているうちに、到着してしまった。

 なかなか立派な玄関だ。どうやら入ってすぐ左側が、事務室らしい。広いホールに向って案内カウンターみたいなものもある。どれどれ。

「すみませーん! この辺一帯のコミュニティ紙を始めた者なのですがあー……」

 

「田中さん、田中さん!」

 研究員のSは、小さいながらも見学者に出されたコーヒーを乗せるために置いてあるテーブルに肘をつき、こっくりしている田中を起こした。

「ほら、コンディション1になり始めましたよ」

 田中が壁のモニターに目をやると、明らかに室内と分かる画像が写っていた。

「ミスターK、ミスターK。こちらモニター室。どうぞ」

主任技師は作業卓から伸びるマイクロフォーンに向って英語で言った。基地局を中心にして行なう無線交信と同じ方式である。

「Kさんの副意識に、呼びかけているのです」研究員Sは田中に説明した。

「ミスターK、ミスターK。こちらモニター室。どうぞ」主任技師は繰り返した。

「コンディション1になってからは、主意識はビジョンの投射へと廻ってしまいますから、当人との連絡はその副意識に頼るのですよ」

「はあ……」まだよく理解できないでいた田中は言った。

「主意識・副意識といっても、脳の物理的領域として位置が別となっているというわけじゃなく、作用の仕方の違いです。そのため、主意識が強く働いている時には、副意識は弱い。逆に、副意識を強く働かせてしまうと主意識は弱まり、せっかくコンディション1となっていても、ビジョン出力が落ちてしまう。だから、副意識への呼びかけは、なるべく簡潔、事務的に行なうのです」

「それで、トランシーバーで交信するような呼びかけ方をしているわけですか……」

「あと、センターにいる人たちが第三者的に聴いてることもあるし」

「ミスターK。こちらモニター室。どうぞ」主任技師は落ち着いた様子で、引き続き繰り返した。

 

 午後二時も近づき、しばし陽の光でまどろんだ。おそらく二、三分。が、それで充分に眠気は去り、頭は再び冴えてきた。

 西村は座ったまま、改めて周囲を見渡してみた。それで、左斜め後に位置するハンバーガー店内も、太陽の光を反射するガラス壁越しに目に入った。

 すると、なんと美人ちゃんが子供と二人でいるではないか。

 しかし、その様子は決して穏やかではなく、テーブルから立ち上がりながら子供を叱りつけているところだった。子供は泣きべそをかいていた。彼女はトレーも片付けず、片手でスーパーのレジ袋を持ち、片手で子供の手を曳き、そそくさと裏口から立ち去ってしまった。西村には、到底、声掛けのタイミングを取ることができなかった。

 

<次章へ続く>

 
  あらすじ 

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小説中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。

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●制作・著作:蒔苗昌彦

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