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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【十七】

 ポルトガル、スペイン、オランダ、フランス、イギリスなどなど。海の覇権が移り行く中、砂糖権益のための戦争すらあったとも言われます。

 

一九〇二年 露牽制の含みある日英同盟、結ばれる。

      義和団運動を機にへ東北三省へ出兵していた露、撤退開始。

      が、滞り、民衆の抗露運動激化。翌年、日が露へ談判。

 

 じこさま、けぱてけぱて。やまこさそごだね!

(おじいさん、もう少しで山です。がんばりましょう!)

 うごげねはんでさあ。わのごといいはんで、いげへえじゃ。

(もう動けん。かまわず行ってくれ)

 

「いいことじゃない、とっても。そうした健康についての啓蒙活動について、欄を設けるということは……。コミュニティ紙ならでは、という感じだわ」

「ああ。俺もそう思う。しっかりと紙面を割くさ」

「心身とも健康な生活があってこそ、コミュニティが成り立つわけですからね」

「従姉さんのマニフェストでも、コミュニティ再生論が前面に押し出されていたね。さすが野党も、これには同意見という立場を表明をしたし、また女性ならではの優しさと評価していた」

「でも、その同じ野党が、私の防衛論が軍国主義的だと猛反発してるのだから……」

「ほんとにな。他国を支配下におくための戦闘行為は、規模の大小に関わらず永久にしない。現在の憲法の下では政権が当然とする姿勢を、マニフェストの冒頭に掲げているのにな。野党はいったいどこを見て反対してるのやら」

「ほんとに」

「国内限定とした上での、同盟国駐留部隊の協力による共同防衛体制の堅持。これを前提としつつも、自主防衛力の向上。特にこの二点が野党のお気に召さないんだろうが」

「そうね」

「しかし、安保理の常任理事国入りは目指すべきじゃない、と従姉さんがきっぱり意見を表明した時の反応には、腹を抱えて笑ったよ。いや、野党のみならず与党内の反応にもさ」

「あら、4141チャネル、また見るようになったの?」

「コミュニティ紙も順調に滑り出したことだしね……」

「国連軍の派兵に責任を持つことになってしまうわけだから、私には真剣な課題よ。でも、ごっ君のように外野から見れば、あの答弁、思わず笑ってしまったかもしれないわね」

「常任理事国入りすれば派兵の可否について権限を持つことになってしまうものの、憲法の制約上、国連軍の人的負担に応じることは不可能なんだから、奇妙な願望さ」

「まったく……。ごっ君がよく口にする認知障害という心理現象じゃないけれど、要は、『常任理事国になりたい・だが改憲には反対』という矛盾を、認めようとしない人がいる。そういう人たち、『国連に沢山お金を出しているのだから』との理由一点ばりよ」

「それら議員の先生がた、常任理事をなにかの名誉職とでも勘違いしているのかいな?」

「そういう傾向の人、たしかにいるわ」

「なんせ、例えば朝鮮戦争だって、派兵された国連軍が共産主義国と戦闘したという過去、認知してんのかねえ。なんせ、我が国にでっかい特需をもたらし、経済復興のバネとなったなんだから。あの戦争や、ベトナム戦争の特需がなかったら、日本はいまだに貧乏国だったろうに。他国に戦争しておいてもらって、自国は平和な経済大国だなんて悦に入ってるようじゃあ、世界平和はまだまだ先という感じだね」

「そうね。まだまだ先ね。だからこそ……」

「だからこそ、まずは自国の安全だけでも、自力で守れるように防衛力を向上しよう。そう、従姉さんは訴えているわけだ。まあ、裏を返せば、自国を自力で守れない国は、他国の平和のために出向きようもない、という皮肉だね」

「そうね。ともかく、国という機関に守ってもらえなくなった民間人ほど、無力で悲惨なものはない。嫌というほど歴史が証明している。特に、地続きの地域で……」

「さすが先住民と移住民の関係論まで踏み込んでは収拾がつかなくなろうが。蒙古の来襲と、第二次大戦以外、他国の侵攻にさらされた経験がない我が国じゃ、希薄になりがちだもんな。四方、海に囲まれているということは、本当にすごいこった」

「ええ。私も職務上なおさら感謝する毎日だわ」

 

「こちら、K。どうぞ……」

 いくつか置いてあるスピーカーの中から、ロボット音声がゆっくり流れた。

「この音声も、主意識への負荷をなるべく軽減するためなのです」

ようやく技師の呼び掛けにKが応答したにもかかわらず、それが全く無機的であることに 面食らった田中へ、研究員Sはあいかわらず気さくに説明した。

「本人の言語発声機能を稼動させず、脳内の電子信号を直接受け取り、音声に置き換えているのです」

「それにしても……」

「それにしても、二〇世紀のSF映画でもあるまいし、こんなにロボットロボットした音色を使う必要はないのでは…… という質問でしょう?」

「ええ。本人の声紋から本物そっくりに合成することもできる時代なのに……」

「このトランシーバー式の交信だけが浮き立つように、わざとロボット音声を使っているんですよ。他の音声に埋もれて、Kさん側からの連絡を聞き落とすことがないようにするため。もちろん、録音してあるから記録上はいいのですが、もし緊急局面となって迅速な対応が必要な場合、困りますからね」

 画像状態は同じままだった。

「ミスターK。こちらモニター室。探査対象の確認をします。二〇一三年、3月2日 19時00分。 デニリア共和国、ソルマシティ。 座標、X795。 Y343。 Zはマイナス002。 どうぞ」

 主任技師は、赤い表紙の冊子を開き、ゆっくりと確認をした。

「こちら、K。対象、確認しました。どうぞ」

「了解。以上」

「ちょうど二年間前の出来事をさぐるわけですね」田中は独り言のようにしてつぶやいた。

「ええ。この時点を基点に、遡ってみたり、進めてみたりして、犯人情報に辿り着こうというわけです。いわばビデオの巻き戻しや早送りのようなものですね」

「で、あの冊子は?」

「捜査の作業確認書です。その中に、ビジョンで捉えたい日時と場所が書いてあるのです。もちろんKさん自身も、コンディションが上がっていく前に、同じ文書に目を通していますが。念には念を入れて確認をするわけです。ともかく、コンディション1の機会は貴重なので……」

 

「直感ですが、育児の悩みでは?」

張り込みの結果について西村からさっそく報告を受けた高橋は言った。

「わたしもそんな気がします」

「名前はまだ分からないのですよねえ」

「棟と部屋番号も、まだ……」

「何かいい方法、ないものかしら」

「そうですねえ、何かいい方法が……」

 二人はコミ健の応接室で、美人ちゃんとの接点を創る方法について頭を捻った。

 

<次章へ続く>

 
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小説中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。

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●制作・著作:蒔苗昌彦

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