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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【二十】

 甘藷畑の広大な入植により先住民が全滅し、奴隷とその使用者・監督者ばかりになってしまった地域すらあったと言われています。

 

 一九〇七年 日仏協定。日露協約。アジアにおける最新の利権を相互に認め合う。

 

 おがみだあっ! おがみだあっ!

(狼だあ! 狼だあ!)

 みなひとつとこになれ! ひとつとこになれ!

(かたまれ! みんな、かたまれ!)

 

「いったんお受けしておきがらも、本当にすみません。どうかお許し下さい」

「いえいえ。こちらこそ、かえってすみません。取材の時間さえ頂ければ、原稿を起こすのは簡単ですから……。出来次第FAXしますので、チェックして下さい。問題なければそのまま掲載しますし、修正を加えて下さっても構いません。では、まずは来週、取材にお伺いします」

「お待ちしてます。よろしくお願い致します」

「こちらこそよろしく……」

 所長さんも、最初は、自分でゼロから原稿を起こすことができると考えたようだ。しかし、いざワープロに向ってみたら頭は真っ白。書き進められても二、三行。期限までに規定文字数に達することができない。不慣れな人に、よくあるパターンだ。

 ところが、叩き台となる原文があれば、「ここは事実と合っていない」「ここは言い回しが不適切」等の判断が、不慣れな人でも可能となる。

 執筆力があると踏んでの原稿依頼というわけじゃなかったので、結果、健康についての情報が発信できれば、所長さん自らが書こうと、俺がささっと書いたものを修正してもらおうと、どちらでも構わない。

 ただし、「コミュニティ健康相談センター・寄稿」との一文を毎回挿入させてもらう許可だけは、是非得たいものだ。ちっと長いが、そのほうが、地域に密着した情報発信という実感が沸こうというもの。

 ま、いずれにしても来週、所長の高橋さんと入念にシリーズの打ち合わせとしゃれこもう。

 

 時おり人間が映り出したものの、田中は再び退屈していた。児童売買の取引が行われたと思われる部屋。その模様をKのビジョン能力を使ってモニターに投射しているとはいえ、ただ部屋の中に三脚を立て、一九八○年代の家庭用ビデオカメラでコマを飛ばしながらモノクロ撮影をしたような画質である。

 もっとも、田中自身が一度だけ経験したビジョン能力も、特別エキサイティングなものではなく、ただ漠と景色を眺めているのと同じだった。それが、ほんの数秒先とはいえ、未来を眺めた点においてKに評価され、このたび候補者として見学者となることとなったのだが……。

「犯罪ものやスパイものの映画で、探りたい部屋や人物を、隠れて観察したり盗聴しているシーンがあるじゃないですか。我々も今、同じ様なシチュエーションにあると思って下さい。捜査という作業には、根気が一番ということなのですよ」

 田中の退屈している様子を見て取った研究員Sは、微笑みながら言った。

「ええ……」田中はあくびをこらえながら応えた。

「とはいうものの、今、目の当たりにしている映像は、二十一世紀最凶の犯罪情報と言ってもオーバーではなく、それを科学の力で解明されつつある超能力パワーを増幅して記録化している点においては、実に凄い状況にあるわけで……」

 Sはどうにか田中の眠気を取り去ってやろうと、広告企画マンになったつもりでアプローチした。

 田中もその気遣いを察し、濃いコーヒーをあおりながら、凶悪犯罪の捜査現場に退屈しているという自分の不謹慎さをどうにか吹き飛ばそうと努力した。

 

「お子さんは?」

「家に置いてきました……」

 高橋の予想通り、育児相談会の翌日には、美人ちゃんから携帯電話があった。さっそく午後一番で外で会うとことになり、西村はハンバーガー店を指定した。先日この店で子供を叱る姿を観た時の印象が強く、つい反射的にこの店の名を口にしてしまったのだが、彼女はすんなりと了解した。

 が、子供は家に置いてきたという。中庭の小さな公園で一度、バーガー店で一度。計二度しか見ていないわけだが、その子は明らかにまだ四歳ほど。保育園に預けてきたのならいいが、家に置いてきたとは……。いや、よく振り返ってみれば、今回だけではない。虫歯予防相談会の時も、子供を連れていなかった。スーパーと居住棟の往復路ですれ違った時も、子供を連れていなかった。みぞれ混じりの雨の中、カラフルな傘を差していた時も、子供は連れていなかった。

「親が様子を見てくれています」

 どう問い返したらいいのか戸惑っている西村の心情に気づいてか・気づかないでか、美人ちゃんは自分のほうから語り出した。

「そうですか。ならば、安心ですね」

「ええ、でも……」

 

<次章へ続く>

 
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●制作・著作:蒔苗昌彦

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