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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【二十九】

 明治維新後、大量輸入された外国産の砂糖により、国内の温帯地方における甘藷生産は激減しました。

 

 一九三二年 満州、建国宣言。傀儡国家とみなした国際連盟、

       承認せず。日へ撤退を勧告。

 

 お、おぐさん。わるけどの、うでもげそんでー……

(お、おくさま。申し訳ありません。いよいよ腕が……)

 かにや、斉藤さん。あぎごしょったはんでだべ、かにしてけへえやー……

(堪忍してね、斉藤さん。きっと昭子のおんぶがたたって。ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい)

 

「度々、すみませんねえ、所長」

「いいえ。こちらこそ、毎週、お越し頂くことになってしまい、すみません」

「毎日お忙しいのでしょう?」

「ええ、まあ。午前中、ちょっとしたイベントも行ないましたし」

「ほう、どんな?……」

「ひな祭り子供大会です」

「そうかあ、今日は三月三日だからなあ」

「よければ、宣伝のために配ったチラシ、さしあげましょうか?」

「あ、はい。是非……。それにしても、バスを使わないで来ると、良い運動になりますねえ……」

「今日も歩いてお越しですか?」

「ええ」

「では、どんどん回復しているんですね。よかったですわ」

「まあ……」

「あら、何か、ご不安でも?」

「なぜかまた腰が痛むので、検査することになったのですよ」

「では?……」

「ええ。日程が決まったらお知らせしますが、再入院して検査することになりましてね」

「そうなんですか……」

「引き継ぎはちゃんとやっておきますから、このコミュニティー健康づくりシリーズ、是非続けさせて下さい。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「さ、インタビューに移らせて頂きましょうか」

「はい」

「では、今回は、実際の運営体制について詳しく……」

 

「ようこそ、お待ちしていました」

「初めまして。ここはどこですか?」

「聖なる森です」

「日本語がとてもお上手ですね」

「いいえ。あなたのお国の言葉、私は話すことはできません。あなたの能力が、あなた自身にとって最適の理解になるように、言葉を置き換えているのでしょう」

「そうですか。自分にそうしたテレパシー能力までもがあったとは……」

「あなたの能力はとても強大です。これほどの能力には、私も初めて出遭いました。もっとも、だからこそ招かれ、辿り着くこともでき、こうやって私の精神と接触しているわけです」

「科学技術の後ろ盾もあってのことだと思いますが……」

「それでは、お招きした理由をご説明しましょう」

「はい。お願い致します」

「自己紹介が遅れましたが、私は、聖人の棺を守る部族の呪術師です」

「聖人の棺?」

「ご存じでなくて当然です。人々の目から隠すべく、この森に入り込んだのですから」

「私は宗教史を学んではいないので、経緯は……」

「あなたがたの文明の史実には、記されようがないと思いますよ、この棺については……。しかし、どうしてこういう聖人が現れることになったのか、その必要性については、むしろあなたがたの文明の史実のほうで充分証明していることでしょう」

「というと?」

「ここがアフリカ大陸だということは、もうお気づきになりましたか?」

「はい」

「昔、多くの人たちが、奴隷として海の彼方に強制連行されたことは、あなたがたの文明においてすら揉み消すことができない事実だと思いますが……」

「ええ、学校の先生にも教わりました。大西洋を越えて、九千万人にものぼる人たちが犠牲になったと。家畜以下に扱われて、船の中で死んでしまった人も無数だったとも……」

「根こそぎ連れ去られた事も多く、絶滅してしまった部族もいました。このことを哀しんだ牧師が、彼らの鎮魂のために大陸を訪れたのです」

「その人が、棺に納められている聖人ですか?」

「ええ。そのミイラです。聖人は存命中に目的を遂げたものの、それにより力が尽き、看取った呪術師がミイラに加工し、あの竹の棺に納めたのです。以来、私たちの部族が、この棺を守り続けてきたのです」

「異教徒にもかかわらず……」

「鎮魂を遂げてくれた以上は、異教徒であることも渡来の人であることも関係ありません。感謝するばかりです。それに、鎮魂によって調和され総合化された無数の人たちの魂が、この棺を通して現れることがあるのです。だから、我々は異教の聖人の亡骸を守るのみならず、いわば別世界への門も守っていることにもなるのです」

「では、こうして私が呼ばれたことということは?……」

「はい、そうです。あなたに向けて、門が開かれたのです。しかしご心配なく。あなたの身体はあくまであなたのお国にあります。あなたのビジョン能力によって、門の先を見て頂くだけですから」

「ええ……」

「見て頂ければ、きっと、あなたに何かしらのメッセージが託されるでしょう」

「それは、鎮魂された人たちからのメッセージですか?」

「いいえ。彼らは総合化され一つに溶け合っています。それ自体は具体的なメッセージを発しないはずです。おそらくは、別世界に旅立ちながらもいまだ鎮魂されていない人からのメッセージでしょう」

「分かりました」

「さ、どうぞ」

 

「では、今回は、実際の運営体制について詳しく……」

木鋳寺のリードで、二度目の取材が始まろうとした。

 ところが、その時、応接室のドアがノックされ、庶務を担当している臨時職員が入ってきた。

「ご来客中にすみません。どうしても所長にお会いしたいという人がいらっしゃいまして。今、玄関ホールに……」

「待って頂くことはできないものかしら?」高橋は臨時職員へ返した。

「あ、どうぞどうぞ。私のほうは、次のスケジュールありませんし……」木鋳寺は言った。

「そうですか。では、お言葉に甘えます。すぐ戻ってくるようにしますので……」

 高橋は応接室を出て、玄関ホールに向った。

<次章へ続く>

 
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小説中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。

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●制作・著作:蒔苗昌彦

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