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人道問題小説「お砂糖」  蒔苗昌彦


【三十二】

 太平洋戦争前には、台湾での量産も合わせ、国内需要が賄えるほどまでになりました。

 

 一九四一年 日ソ中立条約。相互不可侵、および、いずれかが第三国と軍事衝突した

       場合の中立を定める。

       そして、日、真珠湾攻撃。太平洋戦争始まる。

 

 団長。どんでもこんでも、こんやにきめねばまいねね。

(団長。残念だが、やはり今晩にでも、対処せざるをえない)

 そうだがして中尉……。あだるうちのもんにしゃべておぐよ。

(そうですか中尉……。該当する家族に伝えておきます)

 

 おっ、いい位置!

 いや、駄目だ。手を伸ばす気力が出ない。やっぱ、油っけは本当にすっかり抜けちまったようだ。

「この前に、お従姉さんがいらした時、色紙にサインしてもらったわよ」

「そう」

「握手もして下さったわ。大感激!」

「そりゃあ、よかった。じゃ、次回はハグしてもらうよう段取りつけとくよ」

「きゃー、ほんとう?!」

「ほんと。その代わり、俺ともハグしてちょ」

「ハイハイ。ちゃんと治したら、ご褒美にしてあげますよ」

「約束だぜい」

「約束するわ。それより、4141チャネルつけなくていいの?国会中継の時間よ」

「おっ、そうだ。ではでは……」

 

(○×○夫君……)

「今回の変更案の提出、とにかく驚きました。マニフェストにも大きな字で書いてある。国会でも、何度も強調されておられた。記者会見でも、何度も発言なさった。また、ここにも切り抜きがありますが、某ブロック紙のインタビューでも、首相はこの言葉を前面に出している。つまり、私だけでなく、国民はみな、首相の新構想がてっきり『墓地』だと思い込んだ。にもかかわらず、それを『公園』に変更したいとおっしゃる。これでは、国民を翻弄する言動と断じえません」

(木鋳寺 内閣総理大臣……)

「だから、さっきからお詫びしているではありませんか」

(○×○夫君……)

「詫びて頂くのは当然のことです。しかし、それだけじゃ不足だ。そもそも『墓地』と『公園』は、性格が異なる。だから、名称だけ変更するという姑息な手段を使って実現を図ろうなどとせず、構想は全面撤回したらどうですか?」

(木鋳寺 総理大臣……)

「名前の変更といっても、『墓地』という二文字を『公園』へと変更するだけです。『戦争記念』という前段は全く変更しません。それに、墓地作りをやめるというわけではない。公園の敷地内に、墓地エリアも作り、戦死者、戦没者の慰霊塔を立てます。基本趣旨は、なんら変更なし。だから、構想を撤回するつもりは、一切ありません」

(○×○夫君……)

「基本趣旨に変更がないのなら、名前も変えることはないじゃないですか。墓地は墓地のままで、貫き通したらどうなんですか。そうでないと、国民の政治不信を増大することになりますよ」

(木鋳寺 総理大臣……)

「政治不信とおっしゃいますが、では、お答えする前に前提を一つ確認させて下さい。いいですか」

 いよっ、待ってました! 従姉さんの「いいですか」節だ。野党の先生、徹底的にやりこめられるぞう。

「いいですか。その頻度はともあれ、人間は誰でも判断を誤ることがある。これは現実ですよね」

(○×○夫君……)

「何も、首相から授業を受けるためにここにいるわけじゃないが、お応えしましょう。その通りです。完璧な人間はいませんからね」

(木鋳田 総理大臣……)

「もし判断を誤った場合には、それを認め、修正すべきである」

(○×○夫君……)

「当然です。誤りを修正していかなければ、世の中、よくなりませんからね」

(木鋳田 総理大臣……)

「今、確認させて頂きました前提に立ち、私は、マニフェストに記載された『戦争記念墓地』の名称を『戦争記念公園』へと変更させて頂くことを、再度お詫びの上、野党の方々にも承認頂くようお願い致します。では、なぜ、変更したいのか。繰り返しになりますがその理由はシンプルであり、また、政略的な意図は全くありません。ともかく墓地という名称の下では、戦死者、戦没者など、戦争に関わってお亡くなりになった人しか、リストに載せることができません。しかし、公園とという名称に変更し、その敷地内に墓地エリアを設ける方式ならば、墓地とは別のエリアに、戦争で行方不明になった方々、生死不明な方々。加えて、戦争の混乱で、出生すら不明になった子供たち。そうした方々に思いを馳せる記念塔を建てることができます。私が稚拙にもそのことに気づかず新構想を訴えてきたことを深くお詫びし、改めて皆さんのご理解を頂きたく、答弁を終えたいと思います」

 うむ。よしよし。これだけ繰り返せば、野党も蒸し返すことはなかろう。従姉さんたちの不思議な体験も、報われるというものだ。安心してまた一寝入りとしゃれこもう。

 

 んっ? あれ、そう言えば、俺。前回入院した時、何か約束したような?…… いやはや、ほんとに物忘れがひどい。なんだったっけ?……

 

 あっ、思い出した。完治した暁には「平和とは何か」、その定義を語ろうだなんて、偉そうなことを言ったんだ。

 完治どころか再発したし、今度こそお陀仏かもしれんから、講釈たれる機会を失っちまったかな? だが、薬が廻らないうちに、なんとか約束を果たしておいたほうが成仏できてよさそうだ。

 えっ?

「戦争のない状態、それがすなわち平和」だって?

 ふーむ……。ま、世界経済の恩恵に一切あやからず、完璧な鎖国をしてる国なら、そこ単独で成り立つ定義かもしれんがね……。

 それに、たとえその国が戦争をしていない状態にあっても、人権が踏みにじられたり、犯罪が頻発している状態となれば、平和とは言い切れないしな。

 ま、従姉さんたちの不思議な体験にあやかれば、「利得争いに、慎ましい人たちが巻き込まれない状態」それが平和といったところか。

 いや、やさぐれを気取っている俺様が言うにしては、今一つだ。うーむ、薬がまた効いてきたせいだろうか、上手い言い回しが思いつかん……。

 が、ともかく、「少なくとも子供は犠牲にするな」ということさ。

 ほんじゃ、おやすみ!

<次章へ続く>

 
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●制作・著作:蒔苗昌彦

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